自分の意見を言わず、誰にでもいい顔をする――。いわゆる「八方美人」は嫌われるといいます。本心で何を考えているか分からず信用できない、顔色をうかがう態度が嫌、などが嫌悪感を持たれる理由として挙げられます。

しかし、想像したことがあるでしょうか。もしかしたら、八方美人になっている当人こそが、苦しんでいるかもしれないということを……。

 

■ 八方美人な人が抱える心の苦しみ

ラジオ番組『テレフォン人生相談』のパーソナリティを務める心理学者の加藤諦三氏によれば、八方美人になる人は、無意識において「低い自己評価」に苦しんでいるのだと言います。心の底で漠然と、実際の自分は他人には好かれないと思い込んでおり、他人に合わせた自分なら好かれると錯覚している状態なのだと。

ですが、普通に考えれば、他人に迎合しても好かれるのは難しいですよね。それなのに、なぜ八方美人は他人に迎合してしまうのでしょうか?

 

■ 幼少時に形成された、低い自己評価

自己評価の低い人に共通するのは、「ありのままの自分を愛してもらえなかった」という幼少時の記憶。加藤諦三氏によれば、八方美人的な人間を育てる家庭には、服従的な依存関係があるといいます。

服従的な依存関係とは、親自身の自己評価が低いために、親が子どもを自分の延長のようにコントロールしようとすること。つまり、親の意向を満たす子どもは「いい子」として親から愛されますが、親の意向に反する行動をすれば愛されません。その結果、子どもは親の意向を先行して汲み取るようになり、親の期待に応える行動をとり、本当は自分がどうしたいのかが分からなくなっていきます。これが大人になっても続き、八方美人といわれることになるのです。

子どもは往々にして親から叱られる体験をしますが、「叱られても自分は愛されている」と感じられていたか、そうではなかったかが、決定的な違いを生んでいくのだそうです。

 

このように考えると、「親が悪い」と思えてきます。ですが、親も完璧ではありません。八方美人な子どもを育ててしまった親自身も、低い自己評価を抱えたひとりの人間なのです。

親子の問題は、負の連鎖として次世代まで続いていくとよく言われます。この記事を読んでいるあなたが八方美人かどうかはわかりませんが、あなたがいつか親になるとき、もしも「低い自己評価」を抱えたままならば解消する良い機会かもしれません。「親との関係を解決したい。これから生まれてくる子どもには、自分と同じ思いをさせたくない」と言って妊娠中の女性がカウンセリングに来ることも多いと、ある心理カウンセラーに聞いたことがあります。

[執筆: 菅野彩子(ノーツマルシェ編集部)]

 

【参考】
加藤諦三(2013)『自分を嫌うな: もっと自信をもって生きたい人に贈る「心の処方箋」』三笠書房