朝晩の涼しさで夏から秋への変わり目を感じると同時に、思い出す言葉があります。

“吹き来れば 身にもしみける 秋風を 色なきものと 思ひけるかな”
― 紀友則『古今和歌六帖』(※)

色なき風とは秋風を表す俳句の季語として用いられ、華やかさが無い、わびしいといった身に染みる寂しさを表現した言葉です。

 

■ 色なき風とは

秋になると現代の私達も物悲しく感じる人が増え、筆者のセラピールームにも「わけもなく気分が落ち込んで困っている」という相談が増えてきます。

そこには、気温だけではなく視界の見え方も変わることが心理面に影響しています。夏の湿気や陽炎のようなモヤが晴れて空気が凛とすると透明感が増し、物事の輪郭がはっきりとします。色なき風による光景にハっとしたり、じっと考え込んでしまう傾向があるのです。

 

■ 色は生きるためのツール

冬は食料が減り、冬眠する生物もいるなど生物の行動は制限されるため、秋は冬の前に生命エネルギーを蓄積する時期でした。人間は冬という静かで死と隣合わせのような季節の前に、生命の基盤を固める必要がありました。

色なき風の効果により、木の実などの食物の実りは鮮やかな赤や黄色に彩られ、人間の目を惹きます。生きるために多くを収穫して栄養にし、保存するという人間の習性を助けました。

 

■ 秋のシステム

現代は、四季によってこれほどの影響を受けることは少なくなりましたが、体調や感情は太古からの記憶を受け継いでいると言えます。

秋に、わけもなく気持ちが落ち込んだり不安な時は、先人たちの秋の過ごし方を知らず知らずに踏襲しているのです。感情の波は、「人間はそうなるように出来ている」という割り切りや、システムとして受け止めましょう。

秋に気分が落ち込まないためのコツは、秋の正体や存在意義をこのように知ることから始まります。夏の暑さと喧騒が静まれば、人それぞれに感じる「色なき風」。その先にある冬も意識しつつ、短い秋を自分なりに充実させ、実り豊な時間になるようにしていきましょう!

[執筆:桜井まどか(美エイジング(R)心理カウンセラー), 2015年8月30日]

 

【参考】
※ 紀友則『古今和歌六帖』(こきんわかろくじょう)は平安時代に編纂された私撰和歌集で全六帖(六冊)、約四千数百首の和歌を題別に収録。970年から984年の間に成立、撰者は紀貫之、兼明親王とも具平親王ともいわれる。