マネー教育の必要性が語られるようになって久しいですが、お金の話を友人や親とオープンにするといった方は少なく、お金を増やしたいと思っても具体的な行動(証券口座を開く、株式や投資信託を購入する)ができない方が意外に多いと感じています。もしかしたら、経験が少ないことに対する過剰な恐れや不安のせいで、行動をためらっているのではないでしょうか?
もちろん資産運用に必要な知識はきちんと学んでいただきたいですが、実践する前から、損をむやみに怖がっていては機会損失にもつながります。今回は、経済知識ではなくメンタルな部分にスポットをあて、人間の感情や感覚がどう経済活動に影響を及ぼすのかという話をしてみたいと思います。
■ どう行動するのがトクか、損か?
よく知られている事例として、こんな質問があります。
Q. 今すぐもらえる1万円と、一週間後にもらえる1万2千円。あなたならどちらを選びますか?
A. 理屈で考えれば、ノーリスクでより多く貰える「一週間後」を選ぶ人が多そうですが、とある実験によれば、実際には約半数の被験者が「今」もらう方を選ぶそうです。つまり、約半数は少し先の利益増よりも、目先の誘惑(1万円)につられてしまうということになります。さて、あなたはいかがでしたか?
逆に、「損」を選ぶ場合もおいても同様に、心理的なバイアスがかかることがあります。例えば、株式投資をやっている方が買った時の株価にこだわるあまり、損を確定することができない場合がまさにそれ。往々にして人間は、「得」より「損」に過剰に反応するため、このような事態では実際の損を真正面から受け止められない心理状態になっており、正常な判断、次への行動に踏み込めなくなるのです。
■理屈だけでは計れない世のお金の流れ
経済理論とは違って、不合理な行動をとる人間の心理が経済活動にどう影響するのかを研究する学問は「行動ファイナンス(経済行動学)」と呼ばれ、最近ではたくさんの書籍も発表されています。
なぜ行動を起こせないのか?
まだ現実になっていない損をそう怖がるのはなぜか?
これらの質問を通じて「そうそう。ある、ある!」と思われた方も多いと思います。
これから資産運用を始めようとお考えの皆さんにはぜひ、「損」「得」が関わる心理になった時にどう行動するのか、シミュレーションしてみることをおすすめします。かならずしもシミュレーション通りにはいきませんが、事前に陥りやすい心理について学び、あらかじめ行動指針を立てることで、むやみに恐れて一歩前に踏み出せない状態を避けることができるはず。お金とのつきあい方に迷った時に、心の備えはあなたの強い味方となります。
[執筆:海老原 政子(ファイナンシャルプランナー) ]