成功するのに必要なのは、努力か才能か、それとも運か? その全部が必要だという話もありますが、ビル・ゲイツなどの成功者をみていると、そもそも生まれ持った何かが違うような気がしてきます。
努力か才能か? この問いに応える興味深い話をご紹介します。
■ バイオリニストの比較調査
1990年代のはじめ、心理学者のK・アンダース・エリクソンがある調査を行いました(※)。ベルリン音楽アカデミーで学ぶバイオリニストを3グループに分け、彼らの「練習」について比較調査をしたのです。3つのグループはこのように分けられました。
- 1.「スター」世界的な独奏者として活躍できる可能性をもつ学生たち
- 2.「優れた」“優れている”という評価にとどまる学生たち
- 3.「音楽教師」プロになるのは難しく、公立学校の音楽教師を目指す学生たち
そして、学生たち全員に「初めてバイオリンを手にしてから、これまで何時間、練習をしてきましたか?」という同じ質問をしていったのです。
どんな結果が出たと思いますか? 「スター」の学生は、他グループよりも幼い頃からバイオリンを始めていた? もし全グループが同じ練習量だったとしたら、この差は「才能」でしょうか?
■ プロとアマチュア、違いを生んだ要因とは?
この調査の結果、幼少時の練習時間には大差はないことが判明。ところが、8歳を超えたあたりから練習時間に歴然と差が出たのだそうです。要点をまとめると、以下のとおり。
- 学生たちがバイオリンを始めたのは、だいたい5歳頃でほぼ同じ。
- 最初の2~3年間は、どのグループもほぼ変わらず、週2時間~3時間程度の練習。
- 「スター」の学生たちの練習量は、9歳で週6時間、12歳で週8時間、14歳で週16時間。
- 「スター」の学生たちは、20歳頃になると上達したい一心で週30時間以上の練習をしていた。
こうなってくると、20歳頃までの総練習時間の差は大きくなります。調査で明らかになった総練習時間は、「スター」は1万時間以上、「優れた」は8000時間、「音楽教師」は4000時間程度だったそう。音楽アカデミーでバイオリンを専攻する学生として、一見同じように見えていても、練習時間という見えない財産でこれほど差が生まれるのです。
エリクソンは、プロとアマチュアのピアニストについても同様の調査を行い、プロは20歳頃には練習時間の累計が1万時間以上になっていた同じ傾向を明らかにしました。
■ 突き抜けられるかどうかは「1万時間」が鍵!
実は「1万時間」とは、卓越した技術を習得するために必要な時間数として、様々な専門家が“マジックナンバー”として語る数字です。
かのビル・ゲイツも、プログラミングに出会ってハーバード大学を中退して起業後、7年間ひたすらプログラミングに励んだという逸話の持ち主。「7年間ひたすら」ですから、ざっくり計算しても1万時間を軽く超えていますよね。
努力か、才能か? この答えとして「努力できること、努力を続けられることが才能だ」という話をよく聞きますが、もしかしたら成功するのに必要なことは、早い時期に才能を見つけ、できるだけ早く1万時間を積み上げること――なのかもしれません。そして1万時間それに没頭できる“環境”があるかどうかが「運」ではないかと。
さて、あなたはどう思いますか?
[執筆:菅野彩子(ノーツマルシェ)]
【参考】
※ マルコム・グラッドウェル(著), 勝間和代(翻訳)(2014)『天才! 成功する人々の法則』講談社