もうすぐ、○回目の結婚記念日。あなたの夫が「次の結婚記念日には、キミの好きな○○の指輪を買ってあげるよ」と嬉しい約束を。そして当日、あなたが夫に指輪を催促したところ、「え? あ~、ごめん、やっぱりあの約束は取り消させてもらうわ。だから、指輪はナシってことで」と言われてしまったら……。もちろん、期待を裏切られたあなたは怒り心頭ですよね?
でも、このような場合、法律的にはどちらに軍配が上がるのでしょうか?
■ なんと夫婦間の契約は取り消しOK!
このような場合、なんと驚くことに、法律的には夫の方に軍配が上がりそうなのです。というのも、民法第754条に「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる」という規定があるからです。この条文に従えば、「指輪を買ってあげる」という約束も、いつでも一方的に取り消すことができることになってしまいますよね。
■ 夫婦間の約束は愛情で解決すべし
このように納得できない結果を招く民法第754条ですが、さすがに「夫婦間の約束なんて守るに値しない」という趣旨で規定されたわけではありません。この条文の趣旨は、夫婦間での約束は訴訟によって実現させるのではなく、愛情や道義によって実現させるべきというところにあるそうです。一理あるような、ないような。なんとも釈然としない条文ですが、実際には、平成8年の「民法を改正する法律案要綱」で削除が示されるほど、存在意義の薄い条文といわれています。
■ 離婚協議での約束はどうなるの?!
存在意義が薄い条文とはいっても、実際に削除されずに残っているのは厄介なことです。ここまで読まれたあなたも、「婚姻中の契約が取り消しOKということは、離婚するときに決めた離婚協議の内容も、離婚届を出す前にしたから、取り消される可能性があるってこと!?」と心配になってしまったのではないでしょうか? でも、ご安心ください。これについては判例によって、「婚姻が実質的に破綻している場合には、民法第754条によって夫婦間の契約を取り消すことは許されない」と、その取り消しができる範囲に制限がかけられています。離婚協議のように婚姻が実質的に破綻している状態でなされた契約は、この条文によって取り消すことはできないのです。
信頼は夫婦関係の要とも言えるもの。夫婦間の信頼関係を破る不誠実な約束違反は、たとえ、法律が許しても、私たち妻が許しませんよね!
[執筆:糸瀬 彩湖(行政書士/夫婦カウンセラー)]
【参考】
※ 能見善久・ 加藤新太郎(2013)『論点体系 判例民法<第2版> 9 親族』 第一法規株式会社
※ 法務省ホームページ「民法を改正する法律案要綱」