「子どもは3歳までは、常時家庭において母親の手で 育てないと、子どものその後の成長に悪い影響を及ぼす」と考える意識、いわゆる「3歳児神話」には「少なくとも合理的な根拠は認められない」と1998年度の「厚生白書」にて明文化されています。それどころか、「母親が常に家にいることで、子どもに構い過ぎたり、期待をかけ過ぎたりと、母親と子どもが過度に密着することの弊害も色々と指摘されるようになってきている」ともあります(※1)。
しかしながら、現実では3歳児神話に苦しみ、仕事復帰を躊躇し葛藤するママもいるのです。産後ママのサポートコーチの筆者のもとにカウンセリングに訪れたA子さんもそのうちの1人でした。
■ 愛情が薄い母親の烙印を押され…
都内在住のA子さんは夫と生後8か月の赤ちゃんと3人暮らしです。子どもを保育園に預ける目途がたち、いよいよ職場復帰も目前に迫っていました。保育園の入園準備と復職の準備に勤しむ毎日。そんな中、親族から「子どもが1歳にならないのに保育園に預けるの? こんなに小さいのにかわいそう」と言われ、愛情の薄い母親の烙印を押されたようで深く傷つきました。更に「子どもが3歳になるまで母親は側にいるべきだよ」とも諭され、罪悪感とキャリア復帰への希望との間で葛藤の日々でした。
■「子どもがかわいそうに」この一言が突き刺さる
人は頼んでもいない批判や助言に、いい気持ちはしないものです。しかも母親にとって「子どもがかわいそう」と、言われることほど辛いものはないかもしれません。子どもの幸せを一番願っているのは親、それなのに自分が子どもを不幸にしている。そう思うといたたまれないですよね。A子さんもまた、「子どもがかわいそうに」この一言が深く胸に突き刺さったのでした。
■ 3歳児神話に囚われているのはママ自身かもしれません
もしかしたら、子どもが3歳になるまではママがいつも一緒にいた方がいいと考えているのはママ自身なのかもしれません。A子さん自身も「こんなに小さな子どもを預けて働くなんて…」と抵抗する気持ちを抱いていたのです。A子さんの母親は専業主婦でA子さんは幼稚園に通っていました。保育園に通う近所の子どもを見ては「あんなに小さいのにかわいそうに」と口癖のように言っていたのです。A子さんが3歳児神話にこだわるのは、A子さんの母親の考えが影響をしていたのです。A子さんは、自分の価値観ではないことに振り回されていたことに気が付きました。
人は「思い込み」の渦中にいる時は、「思い込み」と認識せず「当然のこと」と認識していることがほとんどです。自分との対話を通じてその「思い込み」に気が付き、解除をしていく。思い込みの枠がなくなると、選択肢も増えて心の自由度が一気に増します。
「子どもが3歳になるまでは母親が側にいた方がいい」これもまた1つの価値観です。価値観は人それぞれ。自分の価値観を追求し認識すると、他人の価値観は気にならなくなるものです。他人の言葉にぐさりときたら、あなたの価値観を再認識するチャンスなのかもしれません。
[執筆:久保木 惠子(コーチ)]
【参考】
※1. 厚生労働省『厚生白書』平成10年版, pp58
※ 児童福祉法では「保育所」の表記が本来の名称ですが、一般的ではないため、本記事では「保育園」と記載しています。
※写真:PIXTA、本文とは関係ありません