日本で急速に普及が予想される新型出生前検査。倫理上、検査はしていませんが、既に胎児の遺伝子情報からあらゆる病気の可能性、知能の高低までわかるといいます。さらに出生前だけでなく妊娠前検査まで登場しました。「命の選別」「結婚差別」にも繋がりかねないこの検査。個人だけの問題ではなく、社会全体の問題として取り組むべきと、様々な団体が声をあげています。では、検査が先行している諸外国ではどうなのでしょうか?
■ 出生前検査、世界の状況
出生前検査は別名「スクリーニング検査」。大人数になるとそれはマス・スクリーニングと呼びます。世界では、既に新生児のマス・スクリーニングを推し進めている国々があります。イギリス、フランス、ドイツなどを代表する欧州諸国と、アメリカ等です。
出生前検査受診率(従来の検査含む)でみると、日本が全妊婦に対して1~3%程度に対し、アメリカは全米で約63%(2010年)、イギリスで約90%(2009年)となっています。
陽性が出た場合の中絶率をみてみると、フランスでは96%が、イギリスでは76%が中絶しているという結果になっています。
■ マス・スクリーニングが普及した背景
これらの国々がマス・スクリーニングを行う背景には、早い時期から進んだ女性の社会進出、それに伴う晩婚化・高齢化があったようです。その結果、高齢出産等による先天性異常の新生児が社会問題となりました。フランスやイギリスを中心に女性の権利や自由が謳われ、それに基づいた法制度改定の一環で、中絶する権利もまた整備されていったのです。
70年代頃は人権の定義も未熟で、先天性異常を社会リスクと捉える傾向がありました。その為、国家プロジェクトとして「先天性異常を防止する」という考え方のもと、欧州では検査や中絶手術が公費でまかなう政策が施行されるようになったのです。しかし、近年、アメリカ、イギリス等で障害者人権が叫ばれ、どちらの選択も尊重するという流れができたようです。
■ 英・仏・米とは違う、日本の出産環境
・イギリス
2004年から国家的プロジェクトとしてスクリーニングを進めてきたイギリスでは、全ての妊婦には公費で出生前検査を提供。あくまで中立の立場から夫婦に選択肢を与え、「産む」場合も「産まない」場合も手厚いサポート体制を整えています。
・フランス
女性の自由が進んでいるフランスでは、一世紀にわたり少子化問題に取り組み、成果を出している一方で、中絶も女性の権利のひとつ捉え、その選択をサポートしています。
・アメリカ
州ごとに施策に差異があるアメリカでは、カルフォルニア州で全妊婦に出生前検査の告知を義務付けるなど、全米でも出生前検査の認知率が非常に高くなっています。
このような先行国の状況をみる限り、出生前検査というのは、産む前に知って中絶するか否かの選択肢を提供する検査となってしまっているのです。
・日本
現在、日本では法律上「胎児の異常」を理由に中絶することはできません。そう謳う国が「なぜこの検査を導入したの?」と思うかもしれませんが、そもそもの導入趣旨は「早くに胎児の問題を知って、産んだ後に備えよ」というものでした。しかし、諸外国の状況をみると、そのような趣旨だけで検査の普及を推し進めるべきでないことがわかります。
日本の特異な出産・育児環境に合うオリジナルな倫理観と政策づくりが急務です。なぜなら、何時でも誰でも起こりうることなのですから。
[執筆:マキコ・アサエダ (産後ライフプランナー)]
【参考】
※『毎日新聞』 2012年09月06日 東京朝刊 「こうのとり追って:出生前診断・英国編 妊婦の選ぶ権利尊重」
※出生前診断情報センター 「海外の状況」
※ブログ『aggren0xの日記』 2013年06月29日 「海外でのダウン症出生前検査後の妊娠中絶率について」
※ブログ『あじさい文庫だより』 2012年04月05日 「出生前診断で「胎児に異常」、10年前と比べ中絶倍増」