■ 成功を目前に、ありえないミスをしてチャンスを逃す
「落後者症候群」という言葉をご存知ですか。あれだけ芝居の稽古をして主役に選ばれるのは当然と周囲からも思われていたのに、選考当日に一番簡単なセリフを忘れてしまう。あるいは、仕事で成功を目前にしながら、考えられないようなケアレスミスをする。両方とも、なぜそんなことをしたのか本人もわからないような場合は、落後者症候群の可能性があるかもしれません。
グレゴリー・L・ジャンツの著書『あなたは変われる 言葉や態度に傷つけられた心を救う本』(※)には、次のようなエピソードが紹介されています。
80年代、アメリカ大統領の有力候補と期待されていた政治家ゲイリー・ハートは、選挙戦の最中、女性スキャンダルの噂が流れました。当然、ハートは浮気を否定したのですが、その後、愛人が彼の別邸に入るところを目撃されたのです。大事な時期になぜこんな軽率なことをしたのか、自らチャンスを放棄しているようにしか思えません。ハートの本心は、自分が大統領になれるような才能はないと思っているから、無意識にやってしまったのかもしれません。このようにチャンスを目の前にして自らを危い状況に追いやるようなことをしてしまい、なぜやったのか本人も理解できないようなケースは、落後者症候群のせいかもしれないとジャンツは指摘しています。
■ 子供の頃に、落後者のレッテルを貼られる
幼い頃から親に、「お前は何もできないダメな人間、落後者だ」と言われ続けていると、自らをそう思い込んでしまう傾向があります。過去に親から受けた言葉の虐待が、大きく影響しているのです。母娘問題カウンセリングを行っている筆者のところに来られるクライアントにも、似たようなケースがあります。
30代後半のB子さんは、金融関係の仕事につき有能な人と周囲からは見られています。今までに何回か昇進を打診されたのですが、いよいよという段階になると、重要な書類を紛失したといったあり得ないミスを犯してしまうのです。そのたびに昇進は見送られてきました。また、プライベートでも結婚願望はあるのですが、付き合っている人と婚約寸前までいくと、相手を怒らすような事を言ったりして破談に。
「大事な話が決まるというとき、子供の頃からさんざん言われてきた『お前なんかにできるわけないよ。落ちこぼれのくせに』という母の声が聞こえてくるのです。そうなると、どうせ私なんか何もできないという気持ちになって、気がつくととんでもない大きなミスをしているのです」 とB子さんは語ります。
落後者症候群のケースでは、自分を信じることができないため、自ら才能をつぶしてしまうのです。このような場合は、何事もマイナスにとらえてしまう自身の思い込みや癖に気づき、それをポジティブに変換させられるような思考法を身につけるなどすれば、落後者症候群から抜け出せる可能性も。自分に自信をつけるためのコーチングやカウンセリングなどをぜひ活用してみましょう。
[執筆:真香(母娘問題カウンセラー)]
【参考】
※ グレゴリー・L. ジャンツ(2002)『あなたは変われる―言葉や態度に傷つけられた心を救う本』毎日新聞社