「妊活休業」で話題を集めた森三中・大島美幸さんの出産。先日、ご本人が出演しているテレビ番組で出産シーンが公開されましたが、この企画を巡り、放送前から賛否両論が巻き起こっていました。そのきっかけの一つが、「産めない人に対して配慮がない」という一部の方たちからの批判。インターネットのニュースにも取り上げられたことでSNSでも議論が拡大しました。
これに対し、『五体不満足』の著者として知られる乙武洋匡さんはこうコメント。
すごい言いがかりだな。「健常者をテレビに映し出すなんて、手足のない人に対して配慮がない!」とか言い出す人が出てきたらどうするんだ(笑)
■産んでいない=かわいそうではない
「配慮がない」と批判している人はあくまでほんの一部で、子どもを産むことができない女性全員の声ではありません。筆者の周りには、望んでもなかなか子どもを授からなくても、子どもが好きで保育士をしている方や、他人の出産を素直に喜べる人もたくさんいます。今回のように、一部の個人的な意見が「世間の声」のごとく取り上げられてしまうのは少し残念な気がします。さらに言うと、騒ぐ方も取り上げる方も、いささか過剰だと思わざるを得ません。
■問題なのは「価値観の押しつけ」
世の中にはさまざまな考え方があり、それ自体は当然構いません。筆者がここで疑問視したのは、どんな場であれそれを無頓着に伝えてしまうこと。産めない人に「配慮がない/かわいそう」と言うこと自体、偏見なのではないでしょうか。擁護されたはずの女性たちからは「大きなお世話!」という声が聞こえてきそうです。このように、無意識のうちに価値観を押し付けてしまっている例が、さまざまなシーンでクローズアップされています。
■行き過ぎはハラスメントになり得る
例えば、妊娠中の女性に「旦那さんがいるんだから無理して働かなくてもいいんじゃない?」と言ったり、育休明けで復帰した社員に「子どもがいるから大変でしょ?」と言ってバックオフィスに異動させたりしたら、それは悪気がなくても嫌がらせ(ハラスメント)になり得ます。先日、『AERA』の記事(※1)をきっかけに、子育てする人を礼参しすぎる風潮(子なしハラスメント)が話題になりましたが、「子どもをもってこそ一人前」というようなスタンスで相手に接することもまた、行き過ぎればハラスメントの対象です。
なんでもハラスメントと騒ぎ立てることは個人的に好ましく見ていませんが、他人への過度な擁護や無頓着すぎる言動は慎みたいものです。どうしても相手と話し合わなければならない時には価値観を尊重しながら傾聴し、その必要がない場合は一方的な価値観を押しつけない。SNSなどで誰でも自由に発言できる時代だからこそ、日常的にこうした意識が大事だと考えます。
[執筆:渡辺さちこ]
【参考】
※1. 『AERA (アエラ)』2015年4/20号, 「大特集:子どもがいないとダメですか?」朝日新聞出版
※写真:Gelner Tivadar / 123RF.COM、本文とは関係ありません