メンタルの現場にいる筆者からみて、赤ちゃんをかわいいと思えない母親は少数派ではありません。それにも関わらず、この問題が大きく表だって語られないのは、「母親は女性だから愛情豊かなもの」という母性神話が大きな妨げになっているように感じます。
周囲の共感を得られないばかりか、母親失格の烙印を押されてしまう恐怖心、そして何よりも我が子への罪悪感などから、「赤ちゃんをかわいいと思えない私は母親失格では?」と一人で悩みを抱えこみ、自責の念にかられている母親がいるのは事実です。
今回は具体的事例をもとにこの問題を考察します。
■ 出産後、日ごとに大きくなる心のざわつき
待望の赤ちゃんを授かり無事に出産を終えたA子さん。生まれたての赤ちゃんを胸に抱き母親になった喜びを噛みしめていました。しかしながら退院後A子さんの心はざわつき始めたのです。「赤ちゃんを抱いてうれしい、だけど……」心の雑音は日ごと大きくなっていきました。雑音が大きくなればなるほど、赤ちゃんは激しく泣き「私の心が不安定だから泣くのかしら。」と、不安が不安をよぶ負のループに入り込んでいきました。
■ 自責の念が、あなたを苦しめる
「毎日お世話をすれば自然と母性が芽生えてくるはず」と、頑張り屋のA子さんは育児に勤しみました。しかしざわつきはどんどん大きくなり、「赤ちゃんがかわいいと思えない私は、母親失格なんだ」と自分を非難し始めました。この気持ちを夫や家族にも打ち明けられず一人で抱え込み、自分を否定しながら始めての育児をこなす日々。心が限界に達したA子さんは、まさに藁をもつかむ気持ちで筆者のカウンセリングルームにお越しになったといいます。
■ 心の古傷が痛む時は癒す絶好のチャンス
「赤ちゃんをかわいいと思えないのなら、無理矢理愛さなくてもいいのですよ」。筆者の言葉に少しずつA子さんの心はほぐれていきました。カウンセリングを進めていく中で、A子さんの場合は幼少期に母親との関係が希薄だったことが判明。それゆえに我が子の愛し方がわからずにいたのです。カウンセリングを通じて、親との関係性を振り返り当時の気持ちをじっくり癒すことで、赤ちゃんとの関係も自然と改善されていきました。
このように幼少期の親との体験を引きずったまま親になり、出産や子育てを機にそのトラウマが再現すること決して珍しいことではありません。幼少期のトラウマが浮上してくるときは苦しいものです。しかしながら心の古傷が痛む時は癒す絶好のチャンスなのです。治癒させることで、その後の子育てもぐっと楽になります。
カウンセリングは、安心してどんな内容でもお話しできる場所です。筆者のようなプロのカウンセラーであれば、あなたの気持ちを受容することから始まります。そして、カウンセラーは守秘義務があり、相談内容を漏洩することはありません。なによりも、心理療法やコーチング手法といった専門知識を持つメンタルのプロに相談することによって、本質的な問題解決が可能になります。
もしあなたが、同じ様な問題を抱え辛い思いをしているのなら、信頼できるカウンセラーに相談してみるのもいいかもしれません。
[執筆:久保木 惠子(コーチ)]