この記事は、認知症の家族を介護する初期に起きる人間関係のトラブルを、心理カウンセラーであり、認知症介助士の筆者・守帰朋子が解説します。経験豊かな介護職でも自分の親の介護には難しさを感じます。ここでは、認知症介護における7つの問題行動と行動の意味を紹介します。
認知症介護で起きる介護される人の問題行動7つ
認知症の症状には「中核症状」と「周辺症状」に大きく分類されます。中核症状は脳の病変により直接起きる症状で、学習と記憶、言語、知覚、運動、社会的認知などの機能低下によるものです。問題行動とは周辺症状(BPSD)と呼ばれるもので、周囲の状況や心身のストレスによって起きます。主に、以下の7つがあります。
1. 症状は身近な人に強く出る
2. 自分が不利になることは認めない
3. 取り繕い
4. 物盗られ妄想
5. 何度も同じことを聞く
6. 何度も同じ物を買う
7. 突然暴言を吐く
7つの問題行動には意味がある
介護者も周囲の人も問題行動の意味を知っていることで対応がうまくなり、精神的なストレス軽減に役立ちます。それぞれ、詳細を解説します。
1.症状は身近な人に強く出る
介護者以外の人の前ではしっかりした態度をとる反面、介護者にはワガママや甘えが出ます。一番頼りにしている人だからこそ、症状が強く出ると考えられています。介護者の悪口を第三者に言うのには「聞き手と親密になりたい」という気持ちも潜んでいます。
2.自分が不利になることは認めない
「自分は正しく、間違っているのは周りの人間」という思い込みが強くなります。「素直に謝らない」「平然と嘘をつく」などは本能的に起きる自己防衛です。説明や説得などは無駄な努力と考え、そういう症状と受け止めることです。
3.取り繕い
「記憶を失うこと」「それを人に知られる恐怖」「できない自分に傷つく不安」「自信の喪失」が原因で起こります。自分にとって都合のよい部分だけを記憶、つじつまの合うように話を作ることもあります。「分かったふり」で詐欺に遭うリスクも高まります。
4.物盗られ妄想
介護者が疑われる理由は、「いつも近くにいるから」です。「置いた場所を忘れたことを認めたくない」ので自分を納得させるために虚記憶(盗られた)をつくります。本人にとってはそれが事実なので、否定し続けると妄想が悪化します。
5.何度も同じことを聞く
「覚えられず、分からないままの状態では不安」と「聞くと教えてもらえるので安心」の繰り返しが起きます。「さっきも聞いた」と返しては、「拒否された」と感じさせます。予定が分からない不安に対しては、メモで対応できます。
6.何度も同じ物を買う
「買ったかな?」と不安になり、「買った方がいい」と判断してしまうのです。「家族に見つからないように隠す」と視界から消えるので「ない」と思い込み、また同じ物を買ってしまいます。もともと買い物依存や収集癖がある方も、要注意です。
7.突然暴言を吐く
感情の抑制機能が衰え、自尊心も低下。些細なことで心の中の敵意が表面化しやすくなります。興奮すると、「親不孝者!」「縁を切る!」など攻撃がエスカレート。介護者が強く返すと、強い感情の不快な出来事として記憶に残ります。
自分が正しいと思い込んでいる人に対して説明や説得は効果がなく、「言うことを聞かせたい」と介護者が強く出ると、ケアではなくコントロールの介護となります。「騒いだらかまってくれる」と学習してしまうと何度でも騒ぎます。そういうときは、相手が騒いでいるときは反応せず、落ち着いているときに対応する習慣を作りましょう。取り繕いは医師でも見抜けないことがあり、早期発見を阻むので注意が必要です。介護者はときに役者になることも必要です。「ごまかすような対応は気が咎める」と罪悪感を持つのではなく、スキルを磨くと考えましょう。
問題行動が出始めたら施設を検討するタイミング
在宅介護において共倒れを避けるためには、本人と家族で施設に入る時期を話し合うことが大切です。ポイントは「何歳になったら」ではなく、「ここまで症状が進んだら」と具体的にすること。施設に入れば、在宅介護よりは介護者はラクになりますが、施設のスタッフ間の連絡ミスもあり、家族の思いが伝わらないこともあります。コロナ禍では家族と面会できず症状が悪化したり、面会禁止を理解できず家族を恨んだりするケースも少なくありませんでした。
認知症の初期の段階で対応を間違うと早期発見が遅れ、症状が悪化します。周囲の人も正しい知識を持てば、介護者を一方的に責めたり、追い込んだりすることが防げます。「コントロール」ではなく、患者目線でケアをする「パーソン・センタード・ケア」の介護をするためにも、専門家とのチーム連携が必要です。
[執筆:守帰 朋子(母娘問題研究家)]
※画像:takeuchi masato / PIXTA(本文とは直接関係ありません)