■ 死別で残された家族が抱くサバイバーズ・ギルト
2016年1月、長野県で起きたスキーツアーのバス事故。若い人達の貴い命が犠牲となり、痛ましい事件となりました。事故や災害では一瞬で生死が分かれることがあります。このようなケースでは、生き残った人が「サバイバーズ・ギルト」と呼ばれる感情を抱くことがあります。
サバイバーズ・ギルトとは、「なぜ、自分だけ生き残ったのか」「亡くなった人に申し訳ない」という思いです。1月22日の『朝日新聞』朝刊社会面では、今回のバス事故でも救助された乗客の中に、こうした思いで悩む人が少なくないと伝えています。
事故や災害だけでなく、病気などでわが子を失った場合も、サバイバーズ・ギルトに近い感情をもつ母親がいます。「体の弱い子に産んでしまってごめんね」。「お母さんが身代わりになってあげればよかった」と自分を責める傾向があります。一方、残された姉妹兄弟達も複雑な感情をもつようになります。
■ 悲しむ母親を見て、自分こそいなくなればと思うように
親にとって、子供を失うほど悲痛なことはありません。たとえ時が過ぎても、悲しみが癒されることはないという人もいます。しかし、残された兄弟姉妹にとっては日常生活は続きます。日々、嘆き悲しむ母親の姿を見ているうちに「自分がいなくなった方がよかったのでは」と思うようになることも。このような感情を抱き続けると、いつしか、自分がこの場にいてもよいのか、自己肯定感がもてないまま成長するようになります。
母娘関係改善カウンセリングを行っている筆者の相談ルームに来られたC子さん(26歳)は、生まれて間もなく亡くなった弟のことで、自分を責め続ける母親を見て育ちました。時に心のバランスを失いがちな母親に対し、C子さんの方がまるで保護者のように振る舞う場合もあったと言います。「母の心はつねに弟にある」。そう思うC子さんの悩みは、自己受容が低く自分を信じられないばかりか、他人にも心を開けない現実です。
このようなケースでは、母親の苦しみと自分の存在をまずは切り離して考えましょう。母親の悲しみを一番理解できても、乗り越えなければいけないのは母親です。重荷を支えてあげることはできても、母親自身が自分の苦しみと向かい合う必要性があるのです。
[執筆:横山 真香(母娘関係改善カウンセラー)]
【参考】
※1. 『朝日新聞』「生存者の心ケア急務」2016年1月22日朝刊社会面