情報通信技術(ICT)の進歩・普及に伴い、世界的に働き方が変化してきています。
2017年1月、フランスでは労働法改正の一環として「勤務時間外の業務連絡の電話やメールなどのデジタルコミュニケーションを制限するべく、従業員側に対応を拒否する権利を保障する」という新法が施行されました。海外メディアではこの権利を「つながらない権利(The right to disconnect)」と報じ、注目されています。
■ 業務外も仕事の対応?
大手広告代理店電通の20代女性社員が2015年12月に自殺したことが大きく報じられ、2016年9月には労働基準監督署が労災認定するなど、過剰労働抑制への社会的な動きもみられるようになっています。
電通でも自殺を受け、長時間労働対策として夜10時にオフィス全館の強制消灯をすることが明らかになりましたが、インターネット上では「自宅で持ち帰り作業をするから実態は変わらない」「結局クライアントからのメール連絡などに、時間外であっても対応せざるを得ない」など、ネガティブな反応が散見されています。
筆者がカウンセリングをした30代の女性Aさんは、育児休業から復帰し現在は時短勤務で働いています。
午後4時に仕事を終え子供のお迎えを済ませ、夕飯・お風呂を済ませ寝かしつけたあと、パソコンで会社のメール対応をしたり、顧客からの電話対応をしたりしています。
「自宅でも結局仕事をしている。次の日でもいいのかもしれないけれど、同僚はまだ働いていると思うとつい気になってしまう」
Aさんは苦笑いしていました。
■ 日本でも目を背けられない「つながらない権利」
筆者が以前取材したIT企業の株式会社ロックオンでは、全社員に毎年9日間連続の「山ごもり休暇」を義務付けており、この休暇中は完全に会社との連絡が禁止されるそうです。9日間担当が不在でも問題がないように、事前に担当業務の洗い出しなどを行うそうで、社員のリフレッシュだけでなく会社としての業務運営面でも効果があるといいます。
電通の例を見ても、いきなり社内の業務慣例を変化させるのは難しいことです。ただ、携帯電話、メールやSNSでのメッセージなど、業務時間外に連絡をとれる手段が増えたことに伴い、業務中・業務外の境界があいまいになることの弊害は確実に出ています。
「つながらない権利」の扱いは、フランスのみならず日本でも目を背けられない問題になっていることは間違いないでしょう。
[執筆:浅賀 桃子(メンタル心理・キャリアカウンセラー)]
※写真:PIXTA、本文とは関係ありません