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フランスでは「バカンス」は無敵の切り札? 国際コミュニケーションをNLP的に考察
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フランスでは「バカンス」は無敵の切り札? 国際コミュニケーションをNLP的に考察

「言葉を理解する」とはどういうことでしょうか。あなたは、「バカンス」という言葉を聞いたときに、どんなイメージを持ちますか。「楽しいけれども、出発する時には周りの人に仕事を頼み、遊びに行くのがなんとなく申し訳ない」と思わないでしょうか。もし、あなたがこういった言葉のイメージを持ちながらフランス人の話を聞くのなら、よく理解できないかもしれません。

この記事では、フランス在住通算16年で日本語子育てサポートのコーチングをしている日仏英トリリンガルの筆者が、「バカンス」という言葉をもとに、「言葉を理解する」とはどういうことかをNLPの考え方を交えながら考察します。

1.フランスにおける「バカンス」は無敵

フランスでは、「バカンス」という言葉は、すべての人が何よりも大事だと思っている無敵の言葉です。どんな時も、「バカンス」という切り札を使えば、相手を納得させることができます。日本でも該当する言葉はあるのかなと考えましたが、「法事」がそれにあたるかもしれません。「法事」と言えば、それ以上の説明をする必要がなくなりますよね。

しかし、フランスにおける「バカンス」という言葉には、もっと強いパワーがあるのです。

 

2.NLPで考える「言葉を理解する」とは?

NLPという言葉を聞いたことがあるでしょうか? 『NLPの基本がわかる本』の言葉を引用すると、NLPとは「Neuro-Linguistic Programming(ニューロ・リングウィスティック・プログラミング)の頭文字を取ったもので、日本語では「神経言語プログラミング」と言われており、アメリカでは、「脳の取扱説明書」とも言われています。」とのこと(※1)。NLPは、より良いコミュニケーションに役立つと言われています。

同じく『NLPの基本がわかる本』には、コミュニケーションにずれがおきる理由の一つとして、人は自分の経験からその言葉をイメージし、「分かったつもりになる」という例が挙げられています。たとえば、誰かがハワイの話をしたとき、聞いていたある人はハワイに行ったことはないが、グアムに行ったことはあったので、グアムの映像を頭に描きながら話を聞き、ハワイの話を理解したつもりになっていた、というようなことです(※2)。

そこから考えると、日本人が自分が持つ「バカンス」のイメージでフランス人のバカンスの話を聞くと、どうも感覚が違う、言いたいことが分からない、という状態になる可能性があります。

 

3.「バカンス」の共通認識の違い事例

例1.「有給は年5週間です。夏休みは、なるべくまとめて数週間とってください ね。」と言う上司。

フランスでの「バカンス」のパワーが分かるエピソードをご紹介したいと思います。

これは、私が昔、日本にあるフランス政府系の機関で働いていたころのエピソードです。仕事を始めたころ、フランス人の上司から有給休暇についての説明がありました。「年間5週間の有給休暇がある」と聞いた私は、頭の中で「なるべく周りの人に迷惑がかからないように、細切れに取った方がいいんだろうな」とか、「額面では5週間と言われているけど、たぶん全部を取得するのは難しいのだろうな」などと考えて、「あのう、なるべく細かく分けて取った方がいいんですよね?」と上司に聞いたところ、上司はぽかんとした顔をして、両手を広げながら「なるべくまとめて、夏になが~く取ってください」と言ったのです。その時の上司の嬉しそうな顔は今も忘れられません。そしてその後、本人もしっかり夏休みを取っていたし、他の人たちも皆そうでした。私にとって、フランス人にとっていかにバカンスが大切で、休暇を取ることが当たり前か、そしてそこに楽しい共感意識があるかが強烈に印象に残ったエピソードでした。

例2.「今日からバカンスに行くので、なんとかしてくれ」と言えば、相手は平謝り。

次は、私がフランスに住み始めてから時が経ち、「バカンス」という言葉のパワーを十分に知ってからのエピソードです。私の娘の学校から、夏休みに入ってすぐの時期に、電話がかかってきました。どうやら学校側のミスで、娘の進級の書類に問題があったようなのです。そしてその電話がかかってきたのは、私たちが日本へ「バカンス」に出発する日の朝でした。

もしこれが日本であれば、私は今日から旅行に行くということをなんとなく言いづらく、なるべく早く書類を何とかしてください、と控えめに学校側に頼んだと思うのですが、ここはフランス。すかさず「あと数時間後にバカンスに出発するので、困ります。すぐに何とかしてください」とちょっと大げさに言いました。すると事務の人は案の定「えっ、今からバカンス! それは本当に申し訳ありません。すぐに何とかして、折り返しお電話します」と言われたのです。こういってはなんですが、フランスでは、何かの手続きが迅速に進むケースというのはあまりありません。そんな中「バカンス」という言葉のパワーによって、問題は数分後に解決し、私たちは無事に日本へ帰ることができたのです。

この2例からわかるように、フランス人は、自分にとっても他の人にとっても「バカンス」がどれだけ大切か分かっているので、この言葉は無敵のパワーを持っているのです。

 

4.まとめ

このように、同じ言葉を聞いても、その言葉が喚起するイメージや意味が違えば、コミュニケーションのずれが起こる可能性を理解することが大切です。言葉が意図していることは、そのまま言葉だけを変換すれば分かるというものではありません。外国人とのコミュニケーションには、このようなコミュニケーションのずれのリスクを知っておくことも大切だと思います。

[執筆:ベラール 聰子(日本語教師/海外子育て日本語教育サポート)]

<註>
※1.山崎啓支(2007年)『NLPの基本がわかる本』日本能率協会マネジメントセンター、12ページより引用
※2.同上、55ページより引用

※画像:Sunny studio / PIXTA

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