最近、コスパ重視の考え方をする人が増えているように思います。コスパとは、コストパフォーマンスの略語で費用対効果を意味します。つまり支出した費用とそれに伴って得られた利益がどれくらいかということです。主に物や仕事に関することが多いのですが、今では人間関係もコスパを優先する人が出てきています。
今回は、心理カウンセラーの立場から、コスパの考え方を人間関係に広げたとき、どのような危険性があるのかをお伝えします。
1.人間関係をコスパで考える人とは
コスパの考え方を人間関係にも適応する人たちは、自分が相手にかけた時間や労力や思いと、相手からの自分に対する見返り(利益)の割合を考えています。自分が想定する相手からの見返りがなければ、コスパの悪い人間関係となるわけです。これは損得勘定からきています。効率重視で損をしたくないのです。このような人は、すぐに成果が現れないと満足できません。そして一直線に目標にたどりつきたいと考えています。少し近視眼的になりやすく、自分にとって何が一番コスパがいいかをすべて把握していると思い込んでいるふしもあります。
2.コスパ優先の人間関係の裏心理
コスパ優先の人は、何事においても効率を一番にするため、無駄を敵視しています。さらに自分が損をすることが何よりも恥だと感じています。損得勘定が強いので、得をするようにどんどん行動する反面、損をしないように鉄壁の守りにも入ります。
守るものは、自分の価値観であったり自分の生き方などで自分軸を持っている人といえそうですが、実は、自分のことを損をした人、コスパの悪い人とまわりから見られたくないという他人軸が強くあります。
そして自分が失敗したときや無駄だったとわかったとき、傷ついたり、悔しかったり、報われなさに苛まれたりする気持ちを感じたくない心理も働きます。また自分の想定外のことが起きたときに、立ち直る力が自分にどこまであるのかと不安を持っているので、コスパを言い訳にしているところもあります。この立ち直る力まで出し惜しみする傾向にあるのです。しかしこの立ち直る力は、使わなければどんどん退化していきます。なぜなら、出し惜しみしていくと、その分、失敗恐怖も強くなるからです。また、この立ち直る力がほとんど育っていない人がコスパという傷つき回避の方策をとってしまうと、ずっと立ち直る力が育たない状態になってしまいます。
3.人間関係をコスパする弊害
コスパを考える人は、損をしたくない、傷つきたくない気持ちが強くあります。だから自分の能力や人間関係の領域内を大事にし、その領域の枠外に出ようとはしません。外にはどのような危険が待っているか分からないからです。しかし人間の成長は、自分の領域を少しずつ押し広げて大きくしていくことにあります。居心地はいいかもしれませんが、守るだけでは、自分の領域が小さくなったり、いびつな形になる危険性があります。自分の可能性を自ら潰してしまっては、もったいないですよね。
4.コスパのよい人生より豊かな人生を
コスパで人間関係を考える人は、今現在のコスト(費用)がこの先ずっと変化せず、コスト(費用)のままだと考えています。しかし、人生の中でコストと思われたことがベネフィット(利益)につながったり、ベネフィット(利益)と思っていたことが、先でコスト(費用)になることもあります。常に変化しているものなのです。
人生には、青年期、成人期、中年期、老年期といろいろな時期があります。青年期、成人期で人間関係をコスパばかりで考えると、先ほどお話しした立ち直る力を練習する機会を失います。この時期は、失敗もしながら自分の可能性をどんどん広げていく時期。そして中年期になると、ある程度は立ち直る力もついてきます。そうなれば、自分にとって大事な関係とそうでない関係が肌感覚でつかめてきます。中年期はその感覚を生かし、人間関係をすぐ切ってしまうのではなく、人との距離感をうまく動かせるようにする時期です。そして老年期は喪失の時期に入り、コスパを考えなくても人間関係が自然と切れてしまう時期です。この時期は、自分に本当に必要なものだけを残していき、居心地のいい環境や穏やかに過ごせる自分を構築していく時期になります。人間関係をコスパで考え、目先のコスパのいい人生より、柔軟な対応をしていきながら、豊かな人生を目指す方が、結果的に生きやすさに繋がっていきます。
[執筆:上土井 好子(公認心理師・心理カウンセラー)]
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