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「丁寧な暮らし」願望がメンタルを疲弊させる理由とは?
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「丁寧な暮らし」願望がメンタルを疲弊させる理由とは?

穏やかでゆとりのある生活、シンプルだけどおしゃれな生活、健康や環境に配慮した生活、そんな「丁寧な暮らし」をしたいと思っている人が増えてきています。そのような中、「丁寧な暮らし」を続けなければと、逆にストレスを溜めてしまうことがあります。

自分にとっての「丁寧な暮らし」をどのように捉えていくのかを、心理カウンセラーがお伝えします。

 

なぜ「丁寧な暮らし」を意識するようになったのか

コロナ禍での外出自粛は、多くの人にとって自分の日常に目を向けるきっかけになりました。そしてSNSなどで丁寧な暮らしをしている人を見ていると、自分もこんな風に毎日を送りたいなと思います。

たとえば、このような暮らしです。
・環境や原料、素材にこだわる。
・料理や掃除に時間と手間をかける。
・早起きしてヨガをする。
・統一感のある食器や家具で自分らしい空間を演出。
・お気に入りのアロマやガーデニングでティータイムが豊かに。

優雅で心にゆとりを持った生活をしたい、しなければと思うようになります。なぜなら、現実はほとんどその真逆だからです。時間に追われながら働き、くたくたになって帰宅するとバタッと倒れ込むように眠る毎日。何一つ思うようにならず、バタバタと子育てと家事に奮闘する毎日。そのような忙しい日々を過ごしているからこそ、心身共に「丁寧な暮らし」に憧れます。

 

「丁寧な暮らし」への憧れによる弊害

「丁寧な暮らし」をすると、心が豊かになり、穏やかでゆとりのある生活になれる! 自分自身も健康で美しくなれるし、家族にも良い影響を与えられる! そう思いますよね。「丁寧な暮らし」のメリットはたくさんあるでしょう。しかし気をつけることがあります。それは、「丁寧な暮らし」とは逆のもの、つまり手抜きや雑にするといったズボラなことに対して、ダメ出しすることです。インスタントの食品やスーパーのお惣菜、出かけない日はパジャマのまま、洗った洗濯物は床の上、洗い物を減らすために鍋のまま食べる、買ってきたパックのまま食べる、疲れたからお風呂はパスなど、現実の生活でやりがちなことに逐一ダメ出しをして、罪悪感を増加させます。そうすると、今の自分の生活がどんどん嫌になってきて、自己肯定感も低くなっていきます。

 

「丁寧」という言葉の呪縛

「丁寧」という言葉の意味は、礼儀正しい、細かいところまで気を配り配慮できる、入念に心を込めて行う、などとなっています。多くの人は、自分のことを善良な人間であると思っていたいもの。だからこそ、「丁寧」であることを暗に求められているようにも感じています。「丁寧」の逆は「粗雑」です。雑でいい加減なものを、なかなか良しとはしにくいのではないでしょうか。日々色々なことに追われて雑な生活をしていると、人間性も「粗雑」と見られるのではという不安も出てきます。また自分に厳しい人は、「粗雑」な自分を許せないのです。この「丁寧」という言葉に縛られると、生活の全てに丁寧さを求め、少しでも雑なところがあれば、自分を責めかねません。「丁寧」という言葉の呪縛でメンタルが疲弊していくのです。

 

「丁寧な暮らし」の本当の目的とは

「丁寧な暮らし」の中に、「心地よさ」という言葉もよく出てきます。この心地よい自分とは、どのようなときかをもう一度考えてみましょう。理想の「丁寧な暮らし」を、外からの情報ばかりで作っていませんか? 子供がウロウロしている中、高級なカップでゆっくりお茶をすることはあなたにとって心地いいのでしょうか。残業続きでヘトヘトなのに朝5時から起きてヨガをすることが自分のためになるのでしょうか。

「丁寧な暮らし」に憧れるときは往々にして人生の中で特に忙しいときです。すべてを放り出して生活を変えるのでなければ、今の現状の中でやれることだけしかやれません。「心地よさ」とは、「無理をしない」ことでもあります。そして、この忙しい時期だからこそ、「丁寧」にしないといけないものがひとつあります。それは、自分自身を丁寧に扱うことです。心身共にクタクタなのに、まだ無理して「丁寧な暮らし」のまねをしようとしていたら、それは自分を雑に扱っていることになります。

まずは自分が少しでも疲れないように、疲れていたら休ませてあげるように心を配りましょう。そのためには、手抜きもズボラも取り入れないといけません。心身に余裕ができれば、心地よさも感じられます。そのとき、自分は何に心地よさを感じるのかに目を向けてみて下さい。

[執筆:上土井 好子(公認心理師・心理カウンセラー)]

※画像:PIXTA(画像は本文とは直接関係ありません)

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