突然の流産は、妊娠の喜びの絶頂から奈落の底に突き落とされるようなもの。あまりの辛さに気持ちの整理がつかないまま、心のバランスを崩すこともあります。今回は辛い流産にどのように向き合えばいいのか、心理カウンセラーの筆者がお伝えします。
38%が流産経験者
妊娠がわかったとき、お腹の中に小さな命を感じて嬉しさが溢れ出てきます。妊娠期間中や出産への不安も多少は出てきますが、妊娠すれば「当たり前に生まれてくるもの」と思っています。しかし流産は、我が子と対面する日を思い描いている中で、赤ちゃんの死という残酷な現実を突きつけるのです。『産婦人科診療ガイドライン産科編2020』(※1)によれば、「臨床的に確認された妊娠の15%が流産となり,妊娠女性の38%が流産を経験している」とのこと。流産は妊娠初期に多いとされ、決して稀なことではないと言われています。
なぜ自分なのか…混乱状態に
現在では流産の原因や客観的データがわかるようになってきました。しかし流産を経験した本人にとっては、その他大勢の中の自分ではありません。ときに「よくあること」と言われたとしても、なぜ私なのか、どうして私の赤ちゃんなのかという気持ちでいっぱいになります。当事者の感覚として当然のことでしょう。日常が昨日とまったく違った景色になり、悲しみや寂しさ、怒りや自責感などの感情が次々に襲ってきます。現実を受け入れられず、自分の心身のコントロールもできない状態で、自分自身がこれからどうなるのかという不安も出てきて、より混乱状態になります。
流産後の反応
流産は、大切な大切な自分の赤ちゃんの喪失体験です。人は大きな喪失体験に見舞われると、人間の自然な反応としてある悲嘆プロセスをたどります。この悲嘆プロセスは、悲しみにずっと苛まれ続けることから自分を守り、また自分を取り戻すためのものです。
流産後の反応<流産直後>
流産した直後は以下のような反応が見られます。
「感情が麻痺する」
・何が起ったかわからない
・頭で理解できても、感情が伴わない
・現実に起ったことに実感が持てない
「感情に巻き込まれる」
・感情のコントロールができない
・パニック状態になる
・涙が止まらず泣き叫ぶ
「身体的な症状が出る」
・過呼吸
・不眠
・胸の圧迫感など
「積極的に適応しようとする」
・悲しさを感じないように日々の生活に対応していく
・忙しく動き回る
・人前で明るく振る舞う
流産後の反応<流産後、少し時間が経った頃
少しずつ落ち着きを取り戻してきます。この時期はまわりの人も日常を取り戻していく時期になり、本人にとっては、一番辛い時期になるかもしれません。夫やまわりの人が今までと同じ生活に戻っていき、流産や赤ちゃんがまるで“無かったこと”のように扱われていると感じます。まわりの人も悪気はないのですが、「早く忘れなさい」「次は頑張って」「よくあることだよ」など言うため、そのような言葉で本人が傷つくことも多くなります。そして自分ひとりだけ取り残された感覚になり、悲しさや寂しさが深まり、誰もわかってくれないという孤独感も増していきます。
また、なぜこんなことになったのかと原因を探し始め、自分を責めたり、他者や環境への怒りを増幅させていきます。このような状態が長く続くと、うつ状態や不安障害になる人もいます。そうならないためにも、辛さや悲しみを必要以上に太らせてはいけません。
流産からの回復…辛い時期の対処法
流産という残酷な現実を受け入れて、自分を取り戻していくためにはどうすればいいのでしょうか。
まず、「乗り越えなければ」という気持ちを強く持たないようにしましょう。流産で身も心も一番傷ついているのはあなたです。乗り越えなければという気持ちは、元気になれない自分を責めることになります。早くいつもの自分にという焦りが、感情に蓋をすることになるのです。そうなると、うまく悲嘆プロセスが進まず、いつまでも悲しみの中に埋もれたり、数年後に突然、精神的症状が出てきたりします。実は喪失体験には、思いっきり悲しめて泣ける環境を作ることが大切なのです。十分に思い出せる日や時間、場所、写真や思い出の品などを用意し、自分の気持ちを出し切っていきましょう。
また、他の喪失体験と流産の喪失体験との大きな違いは、失った赤ちゃんを実感しているのが母親に集中しているという点です。赤ちゃんとの思い出が他の人にはほとんどないのです。その分、まわりの人との温度差も出てきやすくなり、自分の気持ちや経験を話せなくなります。同じ経験をした人たちやカウンセラーなど、話せる場所があると心が落ち着いてきます。流産直後は自分で意識してなくても勝手に色々なことが思い出され感情が乱されます。しかし悲しむ時間や場所を作ることで、次第に自分が思い出そうとするときや関連のあるものを見たときだけ思い出されるようになり、自分自身のコントロール感も取り戻していけます。
赤ちゃんの存在を実感できているのは母親だけです。辛い経験ではありますが、忘れることは大事な赤ちゃんの存在をなくすことにもなります。辛さや悲しさは薄まりはしますが、決してなくなりません。でも赤ちゃんを自分の心の中に生かすことができるのはあなただけだと思います。心の中でたくさん赤ちゃんに話しかけてあげてください。
[執筆:上土井 好子(公認心理師・心理カウンセラー)]
【註】
※1. 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会(編集)『産婦人科診療ガイドライン 産科編2020』日本産科婦人科学会事務局発行2020年4月23日
※画像はイメージです(tsuchimasp / PIXTA)