人は誰でも心が弱ってくると、誰かに頼ったり何かで心を満たすことで、心の健康を回復させていきます。しかし、なかには心の健康を回復させることなく、依存症という病に進む人もいます。依存症という病気の正体を知っておくことで、自分が依存症に進むことを予防することができます。
良い依存と悪い依存
「依存」というとあまりいいイメージがわかないかもしれません。しかし人間は本来「依存」することで安心感と自主性が育ち自立していけます。生まれたばかりの赤ちゃんは養育者に依存することで安心感が得られます。また困ったときに相談に乗ってくれたり、助けられたりすることで、支え合う人間関係を学び信頼感を構築していきます。これらは良い依存と言えるでしょう。しかし自分の不安や寂しさに耐えきれず、相手を支配や束縛をしたり、何か物や行為に頼ったりするようになると、それら依存対象から離れられなくなります。これは悪い依存です。悪い依存がだんだんエスカレートしていくと、生活が乱れ、健康も阻害されます。また家族や周囲との間にトラブルを抱えるようになり、人間関係も崩壊していきます。冷静な判断ができなくなり、犯罪につながる怖れも出てきます。
依存症の種類(物質/行為/人)
・物質への依存
自分の不快な感情をコントロールするため、特定の物質を体内に取り込みます。比較的手軽に手を出せて、すぐに快感が得られるので、気晴らしのつもりが気づいたらハマっていたという危険性があります。物質を体内に入れるので、精神的だけでなく肉体的にもやめられなくなります。例えば、アルコール、薬物、たばこ(ニコチン)、過食など。
・プロセス(行為)への依存
ある行為に没頭することで不快な感情をコントロールしたり、高揚感を得ようとします。プロセス(行為)に依存する人は、対人関係が苦手な人に多く、他者と深い関わりをしなくてもすむため、まわりに気づかれないまま依存が悪化することもあります。最初は「止めなければいけない」と思っているので、何度も繰り返すことで自分への失望感と自責感が募ります。そしてその感情に耐えきれず、また繰り返す負のループになっていくのです。最後は行為を正当化する身勝手な思考になり、認知の歪みが出てきます。ギャンブル、買い物、ネット、ゲーム、万引き、痴漢、セックス、恋愛、仕事など。
・人への依存
人に依存することで、自分の価値を見いだしたり、精神を安定させます。人に依存してしまう人は、人間関係が縦の関係だけになります。つまり自分より上の人にしがみつくか、自分より下の人をコントロール(支配、世話、束縛)しようとします。対等な関係が築けないので、最初はよくても最後には関係が破綻していきます。DV、児童虐待、共依存、親子・夫婦・恋人関係など。
依存症ってどんな病気?
依存症は、自分で自分の行動をコントロールできない「コントロール障害」です。ですから意思の力だけでは回復できません。依存症は本人の自覚がない「否認の病」とも言われ、早期に医療機関に繋がることが難しい現実があります。誰しも最初から依存症になろうとしてなったわけではありません。最初は、「ちょとだけ」「一回だけ」という軽い気持ちから入っていきます。その頃はもちろん自分でコントロールできます。しかし次第に習慣化されていくと、どんどん刺激を求めるようになり、やめられなくなります。ですが気持ちは初期の頃のままで、自分はやめようと思えばやめられる、病気ではないと信じています。依存症の治療は、まず本人が病識を持つことから始まるので、まわりの人がいくら頑張っても進まないことが多いのです。
真面目な人も要注意! 依存症にならないためには
依存症と聞くと、ルーズでだらしない人がなるのではと思われがちですが、実際は真面目で几帳面な人がなることもあります。なぜなら責任感が強く、人に迷惑をかけたくない気持ちから、一人で悩みを抱え込むことでストレスが過剰に溜まり、何かに依存して心のバランスを取ろうとするからです。そうならないためにも、まずは日頃から心や体の不調のサインに気をつけておきましょう。ストレスへの対処法も健全なものをたくさん用意しておいてください。
対人関係のストレスは、相手を変えたい気持ちや変えようと頑張ることで大きくなっていきます。他者を変えることはそう簡単にはできません。相手を変えるのではなく、自分を大切にすることを優先していきましょう。また誰かに相談したり、話を聞いてもらうこともストレス軽減に繋がります。人に頼る場合は、誰か一人と決めず、複数人を想定しておくことが重要です。色々な人がいることで自分と他者との間に一定の距離感を保つ練習にもなり、自他の境界線が引けるようになります。そしてお互いを尊重し自立した関係になり、良い依存となります。また自分で自分を労ることができる自分を作ります。ネガティブな考えが出てきても、それを否定せず、心が落ち着く言葉で優しく自分に声をかけていきましょう。
依存症が疑われるときには、早めに依存症の相談窓口や専門医療機関にご相談ください。
[執筆:上土井 好子(公認心理師・心理カウンセラー)]
※画像:MoustacheGirl / PIXTA(画像はイメージです)